数字に強い営業マンになる!脱・ドンブリ勘定のための「営業計数・価格戦略」完全ガイド

「今月は売上目標達成だ! 気合いで売ってきたぞ!」
こう喜んでいる営業マンの横で、経理担当者や社長が渋い顔をしていることがあります。
「売上は上がっているけど、値引きしすぎて利益が出ていない…」
「回収サイトが長すぎて、資金繰りがショートしそうだ…」
厳しいことを言いますが、「売上」を作るだけの人は「販売員(売り子)」であり、ビジネスパーソンではありません。
会社が求めているのは、「利益」と「現金(キャッシュ)」を会社に残せる営業マンです。
この記事では、脱・ドンブリ勘定を目指すあなたのために、BtoB営業が絶対に知っておくべき「営業計数(数字)」と「価格戦略」を体系的に解説します。
なぜ、営業マンに「数字(計数感覚)」が必要なのか?
「数字は経理に任せておけばいい」と思っていませんか?
その考えが、あなたのキャリアを「現場の兵隊」止まりにさせている最大の原因かもしれません。
数字に強くなるメリットは、単に計算が早くなることではありません。最大のメリットは、「経営者(決裁者)と対等な共通言語で話せるようになること」です。
例えば、商品の導入を渋る社長に対して、ダメな営業マンは「熱意」や「機能の凄さ」で説得しようとします。しかし、社長が見ているのは「投資対効果」です。
「このシステムは100万円ですが、ROI(投資対効果)は150%です。つまり、導入すれば半年で元が取れ、その後は毎月利益を生み出す『資産』になります」
このように数字で語れる営業マンに対して、経営者は「こいつはビジネスが分かっている」と信頼を寄せ、決裁のハンコを押します。
また、数字力は「自分の身を守る武器」にもなります。
理不尽な値引き要求や、無謀なノルマに対して、「ここまで下げると赤字になる」「この目標を達成するには、今の成約率では物理的に時間が足りない」といった根拠を突きつけ、論理的に交渉することができるようになります。
ここから、営業プロセス(見積もり~回収~戦略)ごとに必要な「5つの数字力」を詳しく見ていきましょう。
【基礎】正しい見積もりの作り方
すべてのビジネスは「見積もり」から始まります。ここで計算を間違えると、努力すればするほど会社が貧乏になるという地獄が待っています。
値入率(マークアップ)と粗利率(マージン)の罠
営業マンが最初に躓くのが、この「原価への利益の乗せ方」です。
あなたは上司から「原価80円の商品に、2割(20%)の利益を乗せて売ってこい」と言われたら、見積金額をいくらに設定しますか?
もし、電卓で80 × 1.2 = 96円と計算したなら、あなたは会社に損をさせています。
なぜなら、96円で売った時の利益は16円。売上に対する利益率(粗利率)を計算すると、16 ÷ 96 = 16.6%にしかならないからです。
上司は「20%の利益を残せ」と言ったのに、これでは目標未達です。
正解は、「値入率(マークアップ)」の公式を使って計算する必要があります。
今回の例:80 ÷ (1 - 0.2) = 80 ÷ 0.8 = 100円
100円で売れば、原価80円を引いた利益は20円。20 ÷ 100 = 20%となり、無事に目標達成です。
たかが数円の差と思うかもしれませんが、これが売上1,000万円、1億円と積み重なると、数百万円単位の利益逸失につながります。
「掛けるのか、割るのか」。この違いを理解することが、プロの営業マンへの第一歩です。
【防御】安易な値引きをしないための防衛線
顧客からの「あと10%安くしてくれたら決めるよ」という悪魔の囁き。
多くの営業マンは「契約が取れるなら…」と条件反射で応じてしまいますが、その値引きが自分の首をどれだけ絞めるか、数字で把握していますか?
損益分岐点(BEP)と販売数量の恐怖
例えば、利益率30%の商品を扱っているとします。
これを「10%値引き」して販売する場合、減ってしまった利益を取り戻すために、あなたは販売数を何個増やせばいいでしょうか?
「10%安くしたんだから、販売数も10%増えればチャラ(トントン)だろう」
そう思うのは大きな間違いです。
損益分岐点(BEP)を計算すると、なんと「販売数を50%増(1.5倍)」にしなければ、元の利益額を確保できないのです。
- 定価販売: 100件のアポで達成できた目標。
- 10%値引き: 150件のアポをこなし、1.5倍の納品作業をして、ようやく同じ利益。
あなたは、安易な値引きの対価として、1.5倍の労働を受け入れる覚悟がありますか?
損益分岐点の感覚を持つと、「ここまでは下げても傷は浅いが、これ以上下げると泥沼になる」という「撤退ライン(赤字ライン)」が見えるようになります。
「これ以上の値引きは、御社にとっても品質低下のリスクになります」と毅然と断る勇気は、この計算から生まれるのです。
【攻撃】「高い!」を黙らせる提案ロジック
守りの計算ができたら、次は「高く売る」ための攻撃の数字です。
「競合より高いね」と言われた時、価格競争に巻き込まれず、むしろその高さを価値として納得させるロジックが必要です。
スキミング価格戦略(初期高価格政策)
iPhoneの新機種が高額でも売れるように、市場には「価格が高くても、一番良いものが欲しい」という層(イノベーター・アーリーアダプター)が必ず存在します。
この層をターゲットに、発売初期にあえて高価格を設定して利益を確保する手法を「スキミング(上澄み)価格戦略」と呼びます。
営業現場で「高い」と言われたら、こう切り返しましょう。
「はい、安くはありません。しかし、この価格は業界最先端の機能を搭載し、他社に先駆けて圧倒的な成果を出すための『先行投資』の価格です。誰よりも早く成功モデルを作りたい御社のような企業様にこそ、選んでいただきたいのです」
価格の正当性を自信を持って語れるかどうかが、高単価受注の鍵となります。
ROI(投資対効果)
そして、決裁者(社長)を落とす最強の武器がROI(投資対効果)です。
社長の頭の中は常に「PL(損益計算書)」になっています。「コスト」には厳しいですが、「投資」には積極的です。
例えば、100万円のツールを提案する時、単に「100万円です」と言えば「高い」と返されます。
しかし、「導入コストは100万円ですが、業務効率化により年間150万円の人件費が削減できます。つまり、差し引き50万円のプラスになります」と伝えたらどうでしょうか?
これはもう「出費」ではなく、「お金が増える魔法の箱への投資」になります。
見えない効果(時間の短縮、ミスの削減、モチベーション向上)をすべて「金額(円)」に換算し、提案書に盛り込む。
これができれば、あなたは「モノ売り」から「経営パートナー」へと進化できます。
【管理】売って終わりではない、経営者視点の営業
契約書にサインをもらった瞬間、営業の仕事は終わりだと思っていませんか?
経営者視点で見れば、そこはまだスタートラインです。「お金が入ってくるまで」がビジネスだからです。
キャッシュフロー経営と回収サイト
「黒字倒産」という言葉をご存知でしょうか。
売上(帳簿上の利益)はあるのに、手元の現金がなくなって会社が潰れることです。
これは主に、「支払いが先に来て、入金が後に来る」というタイムラグによって起こります。
営業マンが無頓着に「支払いはいつでもいいですよ」と言ってしまうと、経理は悲鳴を上げます。
「月末締め・翌月末払い(30日サイト)」と「翌々月末払い(60日サイト)」では、会社の資金繰りの楽さが天と地ほど違います。
キャッシュフロー経営の視点を持ち、支払いサイトを1ヶ月短縮する交渉は、商品を1個多く売るよりも、会社の生存率を高める価値があるのです。
LTV(顧客生涯価値)
「今月のノルマのために、なんとしても売りたい!」
その焦りから、質の悪い顧客を無理やり契約させていませんか? そういう顧客はすぐに解約し、サポートコストばかりかかって赤字になります。
これからの営業は、一回の取引額ではなく、「一生涯でいくら払ってくれるか(LTV:Life Time Value)」を最大化する視点が必要です。
特にサブスクリプション型のビジネスでは、長く使い続けてくれる顧客こそが神様です。
「売って終わり(狩猟型)」から「長く付き合う(農耕型)」へのシフト。これが安定した売上基盤を作ります。
【効率】無駄を捨て、優良顧客に集中する
「すべてのお客様は神様だ」というのは、精神論としては美しいですが、経営戦略としては間違いです。
営業マンの時間は有限です。利益を生まない顧客に時間を使いすぎることは、優良顧客へのサービス低下を招きます。
パレートの法則(80:20の法則)とABC分析
多くの企業で「売上の80%は、上位20%の優良顧客によって作られている」という法則(パレートの法則)が成り立ちます。
逆に言えば、下位の顧客は売上のごく一部しか作っていないのに、クレーム対応などで営業マンの時間の多くを奪っている可能性があります。
営業効率を劇的に上げるには、顧客をランク付けする「ABC分析」が有効です。
- Aランク(優良): 全力でサポートし、定期的に訪問する。
- Bランク(普通): 標準的な対応を行う。
- Cランク(下位): 手間をかけず、自動化ツールなどで対応する。
「捨てる勇気」を持つこと。これが、限られた時間で最大の成果(利益)を上げるための鉄則です。
まとめ:数字に強い営業マンは「経営者」になれる
ここまで、営業に必要な「数字」について解説してきました。
これらを理解したあなたは、もう単なる「モノを売って歩く人」ではありません。
- 利益が出る適正価格で見積もりを作り(値入率)
- 投資対効果で顧客を説得し(ROI)
- 安易な値下げ要求を退け(損益分岐点)
- 確実に現金を回収して会社を守る(キャッシュフロー)
- そして、優良顧客にリソースを集中する(パレートの法則)
この一連の動きは、まさに「経営者」が行っている判断そのものです。
「数字に強い営業マン」とは、計算が早い人ではなく、「経営視点でビジネスを捉えられる人」のことです。
これらの数字を武器にすれば、あなたの発言には重みが生まれ、顧客からも社内からも一目置かれる存在になります。
ドンブリ勘定を卒業し、会社に利益をもたらす真のプロフェッショナルへと進化してください。
「利益率」の高い優良顧客を開拓しませんか?
営業計数を理解すると、無理な値引きを要求する顧客や、支払いサイトの長い企業と付き合うリスクが見えてきます。
いくら営業努力をしても、相手が「お金のない企業」であれば利益は出ません。
貴社の価値を正当に評価し、適正価格で取引できる「優良企業のリスト」を作成し、効率的な営業を行いましょう。
📊 数字に強い営業マンになる!「営業計数」シリーズ
- 基礎: 値入率と粗利率(見積もりの計算)
- 攻撃: ROI(投資対効果)の提案法
- 戦略: スキミング価格戦略(高く売る技術)
- 防御: 損益分岐点(値引きのリスク計算)
- 管理: キャッシュフロー経営(回収サイト)
- 長期: LTV(顧客生涯価値)の最大化
営業計数・数字力に関するよくある質問
- Q. 営業マンが最初に覚えるべき「数字」は何ですか?
- A. まずは「値入率(マークアップ)」の計算式を完璧にマスターしてください。ここを間違えると、売れば売るほど赤字になるリスクがあるからです。その次に「損益分岐点」を理解し、自分の値引きがどれだけ危険かを知ることをおすすめします。
- Q. 「計数管理」が苦手な人はどうすればいいですか?
- A. 最初から複雑な簿記を学ぶ必要はありません。まずは自分の商談で使う「見積もり計算」と、自分の給料分を稼ぐための「目標粗利の計算」の2つから始めてください。この記事で紹介した5つの指標(値入・BEP・スキミング・ROI・キャッシュフロー)さえ押さえれば、営業現場では十分通用します。
- Q. ROI(投資対効果)はどんな商材でも使えますか?
- A. はい、基本的にすべてのBtoB商材で使えます。「コスト削減系」なら削減額を、「売上アップ系」なら見込み利益を算出します。デザインや研修など数値化しにくい商材でも、「採用コストの抑制」や「離職率の低下」など、関連する数字に置き換えて提案するのがプロの技です。
Comment