営業DMの法規制まとめ|FAX・メール・郵送の「違法」境界線とコンプライアンス対策
「新規開拓のためにDMを送りたいが、法律的に問題ないのだろうか?」「クレームが来て、会社の信用に傷がつくのだけは避けたい」
コンプライアンス(法令遵守)が厳しく問われる現代において、営業活動における法的リスクへの懸念は、決して無視できない課題です。特にFAX DMやメール営業に関しては、過去の悪質な業者による無差別送信の影響で、厳しい目が向けられることも少なくありません。
しかし、結論から申し上げますと、適切なルールとマナーを守って行われるBtoB(法人向け)の営業DMは、違法ではありません。法律が規制しているのは「悪質な迷惑行為」であり、健全な経済活動としての企業間アプローチは認められています。
本記事では、企業の営業責任者および法務担当者様に向けて、営業DMに関わる主要な法律(特定商取引法・特定電子メール法・個人情報保護法)を整理し、各媒体ごとの「適法と違法の境界線」を明確に解説します。正しい知識を身につけ、萎縮することなく、かつ安全に「攻めの営業」を行うためのガイドラインとしてご活用ください。

営業担当者が知っておくべき「3つの法律」全体像
【本章の要約】
営業活動に関わる法律は主に「特定商取引法」「特定電子メール法」「個人情報保護法」の3つです。しかし、媒体(FAX・メール・郵送)によって適用される法律やルール(オプトイン/オプトアウト)が異なります。まずは全体像を整理し、自社が行う施策がどの規制対象になるかを把握しましょう。
「媒体」によって適用される法律が違う
各媒体ごとの法的規制の違いを一覧表にまとめました。特にメール営業は規制が厳しいため注意が必要です。
| 比較項目 | FAX DM | メール営業 | 郵送DM |
|---|---|---|---|
| 適用される法律 | 特定商取引法 | 特定電子メール法 | 個人情報保護法 |
| 原則ルール | オプトイン (事前承諾が必要) |
厳格なオプトイン (同意なしはNG) |
オプトアウト (停止対応すればOK) |
| BtoBの例外 | 広い 番号公開事業者はOK |
狭い 名刺交換・取引先のみ |
– リスト入手元に注意 |
| 必須義務 | 配信停止欄の設置 | 送信者情報の表示 | 第三者提供の確認 |
※2025年時点の法令および一般的なBtoB実務解釈に基づく目安です。
営業アプローチを行う際、どの手段(ツール)を使うかによって、参照すべき法律が異なります。まずは以下の全体像を把握してください。
- FAX DM: 主に「特定商取引法」の管轄です。
- メール営業: 「特定電子メール法」という、より厳しい特別法が存在します。
- 郵送DM・テレアポ: リストの取り扱いに関して「個人情報保護法」が関わります。
「BtoB」と「BtoC」の決定的な違い
法律を解釈する上で最も重要なのが、相手が「個人(消費者)」なのか「法人(事業者)」なのかという点です。
日本の消費者保護法制は非常に強力であるため、個人宅への無差別な勧誘は厳しく規制されています。一方、BtoB(企業間取引)においては、「業務遂行のためのコミュニケーション」と見なされる範囲が広く、消費者向けほどの厳しい規制は適用されないケースが一般的です。
ただし、法人相手であっても「無条件になんでも送って良い」わけではありません。次章より、各媒体ごとの具体的な規制内容と、実務上の運用ルールを解説します。

図:媒体によって異なる「適用法律」と「規制の厳しさ」
FAX DMと「特定商取引法」:実はBtoBには例外がある?
【本章の要約】
「FAX DMは違法」という誤解がありますが、正しくは「ルールを守れば適法」です。特商法では原則オプトイン(事前承諾)が必要ですが、事業者向け(BtoB)かつ特定の条件を満たす場合は例外的に送信が認められています。その条件と、絶対に欠かせない「オプトアウト(配信停止)策」について解説します。
特定商取引法における「オプトイン規制」とは
特定商取引法(特商法)では、FAXを用いた広告送信について、原則として「オプトイン(事前の承諾)」が必要とされています。つまり、許可を得ていない相手にいきなりFAXを送ることは禁止というのが原則です。
しかし、同法および関連するガイドライン(消費者庁)において、以下の場合は「承諾を得ずに送信しても良い(規制の対象外、または例外)」と解釈される運用が定着しています。
- 取引関係にある場合: 過去に名刺交換をした、商品を購入したことがあるなど、継続的な関係がある相手。
- FAX番号を公表している事業者: ホームページや電話帳などでFAX番号を広く公開しており、かつ「FAX送信拒否」の意思表示をしていない場合。
BtoB営業において、企業の代表FAX番号や公開されている部門FAX番号へ案内を送る行為は、上記の「2」に該当すると解釈され、適法に運用されています。
絶対に必須となる「オプトアウト(配信停止)」義務
送信自体は認められても、相手が「やめてほしい」と思った時に、すぐに停止できる仕組みを用意することは法的義務です。これを怠ると違法となります。
FAX原稿内(通常はフッター部分)に、必ず以下の要素を記載しなければなりません。
- 送信者の名称・連絡先: どこの誰からの案内かを明記する。
- 配信停止の受付方法: 「配信停止をご希望の方は□にチェックをしてご返信ください」といったチェックボックスと返信先番号。
「配信停止欄がない」「文字が小さすぎて読めない」「停止依頼をしたのにまた送ってきた」というケースは、行政処分の対象となるリスクがあります。弊社のFAX配信サービスでは、この法的要件を満たしたテンプレートのみを使用し、停止依頼があった番号を自動でブラックリスト化するシステムを導入しています。

図:トラブルを防ぐためのFAX送信判断フロー
メール営業と「特定電子メール法」:最も厳しいオプトイン規制
【本章の要約】
メール営業(メルマガ含む)はFAXよりも規制が厳しく、「特定電子メール法」により厳格なオプトイン(事前同意)が必須です。名刺交換した相手ならOKですが、Webで拾ったアドレスへの無差別送信はリスクが高いため推奨しません。送信者情報の表示義務などの必須要件を解説します。
「特定電子メール法」は原則禁止のスタンス
メールによる営業活動(広告宣伝メールの送信)は、「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(特定電子メール法)」によって規制されています。この法律はFAXの規制よりも厳しく、「あらかじめ送信に同意した者以外への送信禁止(オプトイン方式)」が徹底されています。
したがって、名簿業者から購入したメールアドレスリストに対して、同意なく一斉送信を行う行為は、基本的に違法となる可能性が極めて高いです。
送信が認められる「例外ケース」
ただし、実務上すべてのメール営業が禁止されているわけではありません。以下のケースは例外として送信が認められています。
- 名刺交換をした相手: 展示会や商談で名刺交換を行い、メールアドレスの通知を受けた場合。
- 取引関係にある相手: すでに取引があり、連絡先としてメールアドレスを知っている場合。
- Webサイト等で公表しているアドレス: 企業の公式サイトなどで「お問い合わせ先」としてメールアドレスを公表しており、かつ「営業メールお断り」等の表示がない場合。
注意が必要なのは3点目の「公表アドレス」です。あくまで「営業活動に支障がない範囲」での送信が前提であり、自動収集ソフト(クローラー)などで無差別に集めたアドレスへの送信は、受信側のサーバーに負荷をかけるため、法律以前にマナー違反として強く批判されます。
メール営業における表示義務
適法に送信する場合であっても、メール本文内には以下の表示が義務付けられています。
- 送信者の氏名または名称
- 受信拒否(配信停止)の通知ができる旨の記載
- 受信拒否通知を受け取るためのメールアドレスまたはURL
- 送信者の住所
- 苦情・問合せの受付先
メール営業を行う際は、FAX以上に「リストの入手経路」と「同意の有無」に敏感になる必要があります。不安な場合は、まずFAXや電話でアプローチし、許可を得てからメールを送るというステップを踏むのが最も安全確実な方法です。
郵送DMと「個人情報保護法」:リストの入手経路は適正か
【本章の要約】
郵送DMは、FAXやメールに比べて送信規制自体は緩やかですが、「送付先リスト(名簿)」の取り扱いについては「個人情報保護法」の遵守が必須です。特に「代表者名」が含まれるデータは個人情報として扱われるため、リスト業者の選定には細心の注意が必要です。本章では、違法な名簿屋を避け、健全なリストを入手・利用するためのチェックポイントを解説します。
「法人情報」と「個人情報」の境界線
「企業への郵送DMなら個人情報保護法は関係ない」と考えるのは危険です。法律上、以下の区別を理解しておく必要があります。
- 法人情報(規制対象外): 会社名、本店所在地、代表電話番号など、法人そのものに関する情報。
- 個人情報(規制対象): 「代表者氏名」や「担当者氏名」など、特定の個人を識別できる情報。
つまり、宛名に「株式会社〇〇 御中」とだけ書く場合は法人情報の範囲内ですが、「株式会社〇〇 代表取締役 山田太郎 様」と記載した時点で、そのリストは個人情報保護法の保護対象となります。
安全なリスト業者を見極める「第三者提供」の確認
自社で名刺交換したリストではなく、外部のリスト業者から購入したデータを使って郵送DMを送る場合、その業者が「オプトアウト手続き(第三者提供の届出)」を適正に行っているか確認する義務があります。
個人情報保護委員会に届け出をしていない「違法な名簿屋」から購入したリストを使用すると、発注した企業側もコンプライアンス責任(管理監督責任)を問われる可能性があります。リストを購入・レンタルする際は、必ず「個人情報保護法に対応した正規の事業者ですか?」と確認し、プライバシーマーク(Pマーク)取得の有無などをチェックしてください。
【実務チェック】トラブルを防ぐための運用ルール
【本章の要約】
法律を守るだけでなく、クレームを防ぎ、企業のブランド毀損を回避するためには、現場レベルでの徹底した運用ルールが必要です。原稿に入れるべき必須文言や、配信停止依頼(オプトアウト)が来た際の社内フローなど、トラブルを未然に防ぐための「守りの営業マナー」をチェックリスト形式で紹介します。
送信前チェックリスト:原稿に不備はないか
FAX DMやメールを一斉送信する前に、以下の項目が原稿に含まれているか、ダブルチェックを行ってください。これらが欠けていると、特商法や特定電子メール法に違反するリスクがあります。
【コンプライアンス・チェックリスト】
- □ 送信者の明示: 自社の会社名、担当者名が正しく記載されているか。
- □ 連絡先の明示: 住所、電話番号、FAX番号などが実在するものか。
- □ 停止方法の明示: 「配信停止はこちら」という案内と、チェックボックス等の意思表示手段があるか。
- □ 情報の入手元(推奨): 「名刺交換をさせていただいた方へお送りしています」「公開情報をもとにご連絡しています」といった一文があると、クレーム率は大幅に下がります。
「配信停止リスト」のデータベース化と共有
最も重大なトラブルは、「配信停止を依頼したのに、また送られてきた」というケースです。これは単なるマナー違反ではなく、特定商取引法における「再勧誘の禁止」や行政処分の対象になり得ます。
これを防ぐためには、電話・FAX・メールなど、あらゆる経路で来た「停止依頼」を一元管理するデータベース(ブラックリスト)が必要です。「営業担当AさんのPCには入っているが、Bさんは知らずに送ってしまった」という属人的なミスを絶対に起こさない仕組みを作ってください。
コンプライアンス重視なら「信頼できる配信業者」を選ぶ
【本章の要約】
法規制は頻繁に改正されるため、自社だけですべてを完璧に対応するのは困難です。特に膨大な配信停止リストの管理(クリーニング)は、手動で行うと必ずミスが起きます。コンプライアンスに準拠したシステムを持ち、リストの権利関係がクリアな専門業者を利用することで、法的リスクをシステム的に遮断するメリットを解説します。
「手動管理」の限界とシステム化の必要性
数千件、数万件の配信を行う場合、返信されてくる「配信停止FAX」を手作業でExcelに入力し、次回の配信リストから削除する作業は、膨大な手間とリスクを伴います。入力ミスや削除漏れが一件でもあると、そこからクレームに発展します。
コンプライアンスを重視する企業こそ、この「停止処理(クリーニング)」を自動化すべきです。弊社のFAX配信システムでは、停止希望のチェックが入ったFAXを受け取ると、システムが自動的にその番号を読み取り、次回の配信対象から恒久的に除外する機能などを備えています。
業者の「リスト保有元」を確認する
配信代行業者を利用する場合、その業者が保有しているリスト(レンタルリスト)の品質も重要です。「どこから入手したリストか」「定期的に更新されているか」「過去にクレームになった宛先は除外されているか」を確認してください。
弊社では、定期的なデータクリーニングを行い、宛先不明や過去に受信拒否があった企業をデータベースから削除しています。これにより、無駄なコストを削減するだけでなく、貴社の社会的信用を守る安全な配信環境を提供しています。
第7章 まとめ:正しい法知識が「攻めの営業」を支える
【本章の要約】
法規制は営業活動を邪魔するものではなく、悪質な業者を排除し、健全な企業が正しく活動するためのルールです。コンプライアンスを遵守することは、結果として顧客からの信頼獲得につながります。「知らなかった」で済まされないリスクを回避し、ルールを守った上で、効果的なDM戦略を展開しましょう。
「恐れすぎず、侮らず」が正解
法律の話を聞くと、「DMを送ること自体が怖い」と感じてしまうかもしれません。しかし、今回解説した通り、特定商取引法や個人情報保護法は、正当なビジネス活動を禁止するものではありません。
- 原則: 相手に迷惑をかけない(拒否されたら送らない)。
- 義務: 自分が何者か名乗り、停止する方法を用意する。
この2点を徹底すれば、過度に恐れる必要はありません。むしろ、ルールを守って堂々とアプローチすることで、コンプライアンス意識の高い企業としての信頼性をアピールできます。
安全なパートナー選びが最初の一歩
もし、社内のリソースだけで法対応やリスト管理をするのが難しいと感じる場合は、専門の実績を持つパートナー企業を頼ってください。
弊社(FAXDM屋ドットコム)では、最新の法改正に対応したシステムと、厳格なリスト管理体制のもと、多くの上場企業様を含むクライアント様の営業支援を行っております。
「この原稿は法律的に大丈夫か?」「このリストは使っても問題ないか?」といったご相談も無料で承っております。リスクをゼロにし、成果を最大化するためのパートナーとして、ぜひご活用ください。
よくある質問(FAQ)
営業DMの法規制に関して、法務担当者様や経営者様からよくいただくご質問をまとめました。
Q. ホームページにFAX番号が載っている企業なら、勝手に送っても違法になりませんか?
A. 原則として、特定商取引法の解釈において「FAX番号を公表している事業者」への送信は、オプトイン(事前承諾)の例外として認められるケースが一般的です。ただし、ホームページ上に「FAXによる営業お断り」等の記載がある場合は、意思表示に従う必要があります。また、送信時には必ず「オプトアウト(配信停止)策」を講じる義務があります。
Q. 名簿業者から買ったリストを使うのは違法ですか?
A. いいえ、適法な業者から購入する限り違法ではありません。ただし、リスト業者が個人情報保護法における「オプトアウト手続き(第三者提供の届出)」を行っているかを確認する必要があります。違法に流出した名簿などを販売している悪質業者からの購入は避けてください。
Q. クレームが来た場合、どう対応すれば良いですか?
A. まずは誠心誠意謝罪し、即座に配信停止の手続きを行ってください。「二度と送らない」ことを約束し、社内の配信停止リスト(ブラックリスト)に登録します。最も避けるべきは、停止依頼を無視して再送信してしまうことです。これは行政処分の対象となる可能性があります。
Q. メール営業で「オプトアウトのみ」の運用は可能ですか?
A. いいえ、現在は法改正により、原則として「オプトイン(事前同意)」がなければメール広告の送信は認められていません。「未承諾広告※」とつければ送れる時代は終わりました。必ず名刺交換やWebフォーム等で同意を得た相手、またはアドレスを公表している相手(条件あり)にのみ送信してください。
本記事の参照元・出典データ
本記事は、以下の公的機関の法令・ガイドラインに基づき作成しています。
-
消費者庁(特定商取引法ガイド)
特定商取引法におけるFAX広告規制、オプトイン・オプトアウトのルールについて。
https://www.no-trouble.caa.go.jp/ -
総務省(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律)
迷惑メール防止法のガイドライン、表示義務について。
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/m_mail.html -
個人情報保護委員会
個人情報の定義、第三者提供(名簿販売)のルールについて。
https://www.ppc.go.jp/
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