1930年代にアメリカで広まったのが、皮下注射モデル(ひかちゅうしゃモデル)です。初期マス・コミュニケーションの代表論として知られています。大量の画一的な情報で大衆が操作される様子が、皮下注射の即効性に似ているため名づけられました。
同じ意味を持つ言葉に「魔法の弾丸理論」というものがあります。世界大戦の最中ということもあり、新聞や映画の影響力が研究され、戦意高揚の手段として使われました。見る側の頭に即時に情報を撃ち込めるため、「魔法の弾丸」と呼ばれたのです。
皮下注射モデルの事例
有名な話がアメリカのラジオ番組「火星人襲来」の宇宙戦争です。
真に迫るオーソン・ウェルズの朗読により、事実と間違え全米がパニックになったと伝えられています。
現在ではパニックになった人々は一部であり、全米ではないといわれています。
ただ、同じ情報を一度に多くの人々が得ることに免疫のなかった時代のため、その反応は注目を集めました。
大衆は情報から影響を受けやすく、動かされやすいという考えから成り立つのが皮下注射モデルです。マス・メディア媒体の使い方次第で動かされると考えられた時代に、ラジオが起こしたパニックは皮下注射モデルの例として有名になりました。

最近は
最近では、マス・メディアの影響力を大衆は受けないとの研究結果もでています。
免疫のなかった頃に比べ、マス・メディアによる社会全体の操作は難しくなったのです。
ただ、ターゲットを個人や興味を持つグループに絞れば、効果は得られます。
新聞やテレビ、ラジオだけでなく、街中では多くの電光掲示板やポスターが情報を発信しています。魅力的な情報として捉える人々と情報が一致した時、メディアの発した情報は影響を及ぼすのです。
2021年現在
現代では、スマホやパソコンが情報伝達手段として活躍しています。マス・メディアだけが情報の送り手ではない時代となったのです。人々に影響を与える情報を発信できるのはマス・メディアの特権ではなくなりました。マス・メディア自身の社会における役割や影響力について考え直す時期ともいえます。
メディア効果研究の対象としてスマホやパソコンは重要な存在です。様々な機能を備えたスマホは、時に個人の情報処理能力を超えてしまいます。適切な情報処理ができない状態に陥れば、悪い影響を社会に及ぼす可能性も出てくるのです。個人の与える情報を有効に伝えられるかどうかはマス・メディアの取り扱いにかかっているともいえます。
より良い社会のためにも、現代に適したメディアの研究は大切です。メディアに免疫がなかった頃の皮下注射モデルとは異なる情報伝達を探す研究が、現在も続けられています。
(このページは2014年に掲載した記事を2015年と2021年に加筆修正更新したものです)