レスター・ワンダーマンとは?「ダイレクトマーケティングの父」に学ぶ科学的営業の原点
「ダイレクトマーケティング」という言葉を1961年に初めて定義し、世に広めた人物。それがレスター・ワンダーマン(Lester Wunderman)です。しかし、彼の功績は単なる「名付け親」にとどまりません。
彼は、それまで「勘とセンス」頼りだった広告営業の世界に、「数字で計測し、科学的に売る」という革命を持ち込みました。現代の私たちが当たり前のように使っているテレアポ、FAX DM、そしてWebマーケティングの基礎理論は、すべて彼が作り上げたものです。
広告を「ギャンブル」から「科学」に変えた功績
1960年代、広告といえばテレビCMや看板などの「マス広告」が主流でした。これらは「何人が見たか」は推測できても、「誰が買ってくれたか」を正確に知ることはできませんでした。
レスター・ワンダーマンはこれに異を唱え、以下のような画期的なシステムを提唱しました。
- 広告を見た特定の個人に、直接行動(レスポンス)を促す。
- 「どの広告から、何件の注文が来たか」を1件単位で計測する。
- テストを繰り返し、最も利益が出るパターンを見つけ出す。
これは、現代でいうCPR(反応獲得単価)やCPO(受注獲得単価)の概念そのものです。
現代のBtoB営業に通じる「3つの発明」
彼が考案した手法は、形を変えて現代のBtoB営業でも標準的に使われています。代表的な3つの発明を紹介します。
「フリーダイヤル(通話料無料)」の導入
今では当たり前の「0120」などのフリーダイヤルを、マーケティングに本格導入したのは彼の功績と言われています(トヨタのキャンペーンなどで活用)。
「顧客側の金銭的リスク(通話料)」を取り除くことで、問い合わせのハードルを極限まで下げるこの手法は、まさにCPR(レスポンス単価)を下げるための発明でした。
雑誌の「綴じ込みハガキ」
雑誌の中に、切り取ってそのまま投函できるハガキを綴じ込む手法も彼が広めました。
「電話する」「ハガキを書く」というアクション(CTA:Call To Action)を簡略化することで、劇的に反応率を高めました。これは現代の「ランディングページの申し込みボタン」の原型です。
3. アメリカン・エキスプレスの「会員制モデル」
彼はアメリカン・エキスプレス(アメックス)の成長に大きく貢献しました。単にカードを使わせるだけでなく、「会員であることのステータス」や「継続的な特典」を提供することで、顧客をファン化させました。
これは、一度の取引で終わらせず、長期的に利益を得るLTV(顧客生涯価値)重視のビジネスモデルの先駆けです。
名言に学ぶ営業の本質
彼の著書やスピーチに残された言葉は、現代の営業マンにとっても重要な指針となります。
“If you don’t sell, it’s not creative.”
(売れなければ、それはクリエイティブではない。)
どんなに美しいデザインのDMや、洗練されたトークスクリプトでも、結果(売上)に繋がらなければ意味がないと彼は断言しています。
ダイレクトマーケティングにおけるクリエイティブとは、芸術作品を作ることではなく、「顧客を動かすこと」なのです。
まとめ:ツールが変わっても「本質」は変わらない
レスター・ワンダーマンが活躍した時代の「郵便」や「電話」は、現代では「メール」や「チャット」に変わりました。
しかし、彼が確立した以下の本質は、1ミリも変わっていません。
- ターゲットを絞る(リストの選定)
- 計測可能なオファーを投げる(CPR/CPOの管理)
- テストして改善する(科学的なアプローチ)
FAX DMもテレアポも、古い手法ではなく、この「科学的なアプローチ」を実行するための強力な手段の一つです。彼の理論を体系的に理解し、自社の営業活動に活かしたい方は、ぜひ基礎理論の解説ページも併せてご覧ください。
>>【基礎理論】ダイレクトマーケティングとは?BtoB営業を科学する40:40:20の法則
合わせて読みたい関連用語
- 基礎理論(親記事): ダイレクトマーケティングとは?
- 彼が重視した指標: CPR(反応単価) / LTV(顧客生涯価値)
参照・引用元情報
本記事の執筆にあたり、以下の書籍および専門機関の情報を参照しております。
- 著書: Being Direct: Making Advertising Pay (English Edition) – Lester Wunderman
- 関連団体: Association of National Advertisers (ANA)
※レスター・ワンダーマンが設立に関わった米国ダイレクトマーケティング協会(DMA)は、現在ANAに統合されています。
レスター・ワンダーマンに関するよくある質問
- Q. レスター・ワンダーマンの代表的な名言は?
- A. 「売れなければ、それはクリエイティブではない(If you don’t sell, it’s not creative.)」という言葉が最も有名です。広告は芸術作品ではなく、あくまで販売のための科学的な手段であるという彼の哲学を象徴しています。
- Q. 現代の営業にどう関係していますか?
- A. 彼が提唱した「数値を計測して改善する」という手法は、現代のWebマーケティングやインサイドセールスの基礎(CPRやLTVの管理)そのものです。フリーダイヤルや会員制プログラムの導入など、彼が考案した仕組みは今もビジネスの標準となっています。
(2014年に掲載した記事を15年と25年に加筆修正更新したものです)

Comment