応酬話法とは?営業の「断り」を「合意」に変える4つの切り返し【Yes-But / And / If / How】
「今回は見送らせてください」
「今は間に合っています」
営業をしていて最も心が折れそうになる瞬間、それはお客様から明確な「No(断り)」を突きつけられた時ではないでしょうか。
多くの営業マンは、断られた瞬間に「そうですか、失礼しました…」と引き下がるか、逆に焦って「いや、でもですね!」と食い下がって嫌われてしまいます。
しかし、売れる営業マンは違います。彼らは反論を「拒絶」ではなく「お客様の本音を知るヒント」と捉え、会話の主導権を握り返します。その時に使われる技術が「応酬話法(おうしゅうわほう)」です。
本記事では、古くからある「Yes-But法」だけでなく、現代のビジネスシーンに適した柔らかい切り返し技法である「Yes-And法」や「Yes-If法」など、4つの基本型と具体的なトーク実例を解説します。
これらをマスターすれば、断り文句に対する恐怖心が消え、商談やテレアポの突破率が確実に変わります。

📢 営業心理学シリーズ
本記事は、営業現場で使える心理テクニックの一部です。全体の体系的な知識は「営業心理学とテクニックまとめ」をご覧ください。
応酬話法とは?なぜ必要なのか
【本章の要約】
応酬話法とは、顧客のネガティブな反応を受け止め、肯定的な流れに変える会話技術です。いきなり反論する(No-But)のは最悪手。まずは「クッション言葉」で受け止め、心理的な壁を取り除くことが重要です。
「No-But」は最悪手!まずは受け止める
お客様が「ちょっと高いな…」と言った時、とっさにこう返していませんか?
「いや、高くありませんよ! 機能を見れば安いくらいです!」
このように、相手の意見を否定(No)してから自分の意見(But)をぶつけると、お客様は「自分の気持ちを否定された」と感じます。これを心理学では「心理的リアクタンス(抵抗感)」と呼び、心のシャッターが降りてしまいます。
「クッション言葉」が会話の潤滑油
応酬話法の基本は、「Yes(肯定・共感)」から始めることです。まずは相手の言い分をそのまま受け入れます。そのために不可欠なのが「クッション言葉」です。
- 「おっしゃる通りです」(基本の肯定)
- 「ごもっともなご意見です」(強い敬意)
- 「そのお気持ち、よく分かります」(感情への共感)
- 「大変勉強になります」(相手を立てる)
このワンクッションがあるだけで、その後のこちらの主張が、驚くほど相手の耳に入りやすくなります。
【基本の4型】Yes-Butだけじゃない!使い分けテクニック
【本章の要約】
有名な「Yes-But法」は、使いすぎると「でも」という否定感が強く出ます。現在はより柔らかい「Yes-And法」などが主流です。状況に応じて使い分けるべき4つの基本型(But / And / If / How)を解説します。

図:現代の主流は「Yes-And法」。状況に応じて4つを使い分けよう。
Yes-But法(イエス・バット):逆説
「そうですね。しかし、実は〜」
最も有名な基本形です。相手を肯定した後に、「しかし(But)」でこちらの主張を展開します。
メリットを強調したい時や、お客様の誤解を解きたい時に有効ですが、多用すると「口答えされている」と感じさせるリスクがあります。
Yes-And法(イエス・アンド):同調・付加
「そうですね。それに加えて、実は〜」
「しかし(But)」という否定語を使わず、「その上(And)」で情報を付け加える手法です。
相手と対立せず、同じ方向を向いたまま提案ができるため、現代の営業では最も推奨されるテクニックです。
Yes-If法(イエス・イフ):仮定
「そうですね。もし仮に〜だとしたら、いかがですか?」
相手が断る理由(ネック)が本当かどうかを確かめる時に使います。「予算がない」と言われた時に「もし予算の問題がクリアできたら、導入したいですか?」と聞くことで、本気度を探れます。
Yes-How法(イエス・ハウ):質問
「そうですね。では、どのようにすれば〜できますか?」
相手に解決策を語らせる上級テクニックです。こちらから説得するのではなく、相手に「どうすれば導入できるか」を考えてもらうことで、当事者意識を持たせます。
応酬話法 4つの型 比較表
| 名称 | 接続詞 | 特徴・印象 | おすすめシーン |
|---|---|---|---|
| Yes-But | しかし、ですが | メリハリが出るが、 否定感も少しある |
誤解を解く時 インパクトを出したい時 |
| Yes-And | 実は、それに加えて | 柔らかい印象 対立せず情報を追加 |
信頼関係を崩したくない時 あともう一押ししたい時 |
| Yes-If | もし仮に〜なら | 相手の本音や 条件を引き出す |
断り文句が建前っぽい時 ネックを特定したい時 |
| Yes-How | どうすれば、どんな | 相手に喋らせて 解決策を探る |
手詰まり感がある時 相手の協力を仰ぐ時 |
【シーン別】明日から使える切り返しトーク実例集
【本章の要約】
「価格が高い」「他社を使っている」「今は忙しい」という営業現場の3大・断り文句に対する具体的なスクリプトを紹介します。型を知っていても言葉が出てこなければ意味がありません。そのまま使えるフレーズ集です。
ケース①:「予算がない・高い」と言われたら
最も多い断り文句です。ここでは、価格以上の価値を伝えるYes-But法が有効です。
【OKトーク例:Yes-But】
「おっしゃる通りです。決して安い金額ではありませんよね。(Yes)
しかし、今回は単なるコストではなく、御社の残業代を年間200万円削減するための『投資』と考えていただけないでしょうか?(But)
導入して半年で元が取れる計算になりますが、このシミュレーションをご覧いただけますか?」
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価格交渉の際、ただ値下げ(ダウンセル)するのではなく、別の提案で単価を維持・向上させるテクニックについては、以下の記事で詳しく解説しています。
👉 アップセル・クロスセル・ダウンセルとは?単価とLTVを最大化する3つの戦略
ケース②:「付き合いのある業者がいる」と言われたら
すでに他社を利用している場合、無理にひっくり返そうとすると嫌われます。共存を狙うYes-And法を使います。
【OKトーク例:Yes-And】
「そうですよね、長くお付き合いされている業者様がいらっしゃるのは素晴らしいことです。(Yes)
実は、私どもも、今の業者様からすぐに切り替えてくださいとは申しません。(And)
ただ、比較検討のための『セカンドオピニオン』として情報を持っておくことは、御社にとってリスクヘッジになるかと思います。業界の最新事例だけでもご覧になりませんか?」
ケース③:「忙しいから資料だけ送って」と言われたら
テレアポでガチャ切りされる寸前のパターンです。ただ送るだけではゴミ箱行きです。Yes-If法で相手の関心をフックします。
【OKトーク例:Yes-If】
「承知いたしました。お忙しい中ありがとうございます。ではメールでお送りします。(Yes)
あともし一点だけ、もし仮に資料をご覧になって興味を持っていただけるとしたら、『コスト削減事例』と『機能一覧』、どちらを重視されますか?(If)
(…コストかな)
ありがとうございます!ではコスト削減に特化した資料を厳選してお送りしますね!」
※こうすることで、「自分が選んだ資料」という意識が生まれ、開封率が上がります。
応酬話法が逆効果になるNGパターン
【本章の要約】
テクニックに溺れて「論破」しようとすると必ず失敗します。やってはいけないのは、「でも」の連発、食い気味の返答、そして感情を無視した正論攻撃です。応酬話法は相手を打ち負かす武器ではなく、合意形成のためのツールです。
「でも」「しかし」の連発(Yes-Butの乱用)
Yes-But法は強力ですが、会話の中で「でも」「しかし」を連発されると、お客様は「この営業マンは自分の意見を絶対に認めないな」と不快感を抱きます。
特に、お客様が話している途中で「いや、それはですね」と遮るのは論外です。Yes-Butを使うのは「ここぞ」という場面に絞り、基本は否定語を使わないYes-And法を中心に組み立てるのがベターです。
食い気味に切り返す(マニュアル対応)
お客様が断り文句を言い終わるか終わらないかのタイミングで、マニュアル通りの完璧な切り返しを即答するのも危険です。
「ああ、そのパターンですね」と見透かされてしまいますし、「私の話を真剣に聞いていない」と思われます。
あえて一呼吸置き、「なるほど…そうお考えなのですね」と咀嚼(そしゃく)する間を作ることが、信頼獲得への近道です。
論破してしまう(ロジハラ)
最も犯しやすいミスが「論破」です。
お客様の「高い」という感情論に対して、完璧なROI(費用対効果)データで論理的にねじ伏せたとします。議論には勝てるかもしれませんが、「あなたからは買いたくない」と商談には負けます。
営業のゴールは「論破」ではなく「契約」です。正論を振りかざす時ほど、クッション言葉で優しく包む配慮が必要です。
まとめ:反論は「興味」の裏返しである
「高い」「他社を使っている」といった反論が来ると、つい身構えてしまいます。しかし、本当に興味がないお客様は、反論すらせず「無視」をするか、「あーはいはい」と適当に流して電話を切ります。
わざわざ反論してくれるということは、「納得できる理由があれば買いたい」というサインでもあります。
恐れずに、今回紹介した4つの応酬話法を活用してください。
- 基本の「Yes-But」で誤解を解く。
- 柔らかい「Yes-And」で情報を添える。
- 本音を探る「Yes-If」でネックを特定する。
- 相手に委ねる「Yes-How」で解決策を導く。
まずは「おっしゃる通りです」というクッション言葉を口癖にすることから始めましょう。それだけで、お客様との会話のキャッチボールは驚くほどスムーズになります。

図:反論する前に、まずは「クッション言葉」で相手の感情を受け止めよう。
よくある質問(FAQ)
応酬話法やテレアポの切り返しについて、営業担当者からよくある質問にお答えします。
Q. Yes-But法とYes-And法、どっちを使うべき?
A. 基本的には「Yes-And法」を推奨します。「しかし」という否定語を使わないため、お客様の反発を招きにくいからです。ただし、お客様の認識が明らかに間違っている場合(誤解している場合)は、あえて「Yes-But」で訂正する方が親切な場合もあります。
Q. 全く聞く耳を持たない相手にも切り返すべき?
A. 明らかに怒っている場合や、ガチャ切りする勢いの相手には、無理に応酬話法を使わず引くことも重要です。しつこい営業は会社の評判を落とします。「承知しました、貴重なお時間をありがとうございました」と潔く引くことで、将来的な再アプローチの可能性を残せます。
Q. 応酬話法が上手くなる練習方法は?
A. ロープレ(ロールプレイング)が最適です。上司や同僚に「高い」「今はいい」といった断り役をやってもらい、瞬時に「おっしゃる通りです、実は〜」と返す練習を反復してください。頭で考える前に口からクッション言葉が出るようになれば習得完了です。
(2014年に掲載した記事を25年に加筆修正更新したものです)
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