ドア・イン・ザ・フェイス&フット・イン・ザ・ドアとは?違いと使い分けを営業事例で解説
「いきなり本題(契約やアポ)を切り出して、門前払いされていませんか?」
交渉において、要求を通す順番は非常に重要です。順番を間違えると断られますが、正しい手順を踏めば、心理学的に「断りづらい状況」を作ることができます。
営業心理学には、交渉を有利に進めるための有名な「2つのテクニック」があります。
- フット・イン・ザ・ドア(小さく入って大きく育てる)
- ドア・イン・ザ・フェイス(大きくふっかけて小さく着地する)
名前は似ていますが、その中身と使うべきシーンは正反対です。
本記事では、この2つのテクニックの意味と心理的メカニズム(一貫性の原理・返報性の原理)、そしてBtoB営業の現場ですぐに使える具体的なトーク事例を解説します。

📢 営業心理学シリーズ
本記事は交渉テクニック編です。営業心理学の全体像や基礎知識は「営業心理学とテクニックまとめ」をご覧ください。
2つのテクニックの意味と決定的な違い【比較表】
【本章の要約】
2つの違いを一言で定義します。「小さく入って徐々に要求を大きくするのがフット・イン・ザ・ドア」、「最初に大きな要求を断らせてから本命を通すのがドア・イン・ザ・フェイス」です。それぞれの心理的根拠を比較表で整理します。

フット・イン・ザ・ドア(段階的要請法)
「小さなYes」を積み重ねて、最終的に「大きなYes」をもらう手法です。
セールスマンが開いたドアの隙間に足(Foot)を入れ、「お話だけでも」と小さく入っていく様子から名付けられました。
まずは「資料請求」や「無料お試し」など、ハードルの低い要求から承諾してもらい、徐々に信頼関係を築いて本契約へ繋げます。
ドア・イン・ザ・フェイス(譲歩的要請法)
最初に「無理な要求」をして断らせ、次に「本命の要求(譲歩案)」を出して承諾させる手法です。
訪問販売員がいきなりドアを開けようとして、目の前でバタンと閉められる(Door in the Face)様子から名付けられました。
「1時間の面談」を断られた直後に、「では玄関先で5分だけ」と切り出すことで、「それくらいなら…」と承諾を引き出します。
2大テクニック比較表
| 名称 | 要求の順番 | 心理法則 | 得意なシーン |
|---|---|---|---|
| フット (Foot in the door) |
小 ➡ 大 (階段を登る) |
一貫性の原理 「一度OKしたから次も…」 |
新規開拓、Web集客 信頼関係の構築 |
| ドア (Door in the face) |
大 ➡ 小 (ハードルを下げる) |
返報性の原理 「譲歩してくれたから…」 |
テレアポ、価格交渉 短期決戦 |
【フット・イン・ザ・ドア】小さなYesを積み重ねる
【本章の要約】
人には「自分の言動を一致させたい」という「一貫性の原理」があります。リードナーチャリングやFAX DMからのWeb誘導など、信頼関係をゼロから構築する場面での具体的なステップを解説します。
心理メカニズム:一貫性の原理
人間には、「自分の態度や発言、行動を一貫したものにしたい」という強い心理的欲求があります。これを心理学で「一貫性の原理」と呼びます。
一度小さな要求(資料請求など)を受け入れると、「自分はこの会社に興味がある人間だ」「自分はこの担当者の話を聞くことにした人間だ」という自己イメージが形成されます。
そのため、次の要求(アポ打診)が来た時も、そのイメージを一貫させるために「Yes」と言いやすくなるのです。
BtoB営業での活用事例(リード育成)
いきなり「契約してください」と言うのではなく、以下のように階段を作ります。
【成功ステップ例】
- Step 1(負担小):Webで役立つ資料(ホワイトペーパー)を無料ダウンロードしてもらう。
- Step 2(負担中):メルマガで有益な情報を送り、ウェビナー(無料セミナー)に参加してもらう。
- Step 3(負担大):「個別の無料相談会(オンライン商談)」を打診する。
Step 1で「Yes」と言った顧客は、いきなりStep 3を打診された顧客よりも、成約率が数倍高くなることが実証されています。
【ドア・イン・ザ・フェイス】断らせてからが本番
【本章の要約】
人には「譲歩されたらお返しをしなくては」という「返報性の原理」があります。テレアポやクロージングなど、短期決戦で結果を出したい場面での使い方を解説します。断られた直後こそが最大のチャンスです。

心理メカニズム:返報性の原理 + 知覚のコントラスト
このテクニックには2つの心理効果が働いています。
- 返報性の原理(譲歩の返報性):
相手が要求レベルを下げてくれた(譲歩してくれた)のだから、自分もその好意に応えて妥協しなければならない、という義理人情の心理。 - 知覚のコントラスト(対比効果):
最初に大きな要求(50万円)を見せられると、次の要求(5万円)が実際以上に小さく・安く見える心理。
BtoB営業での活用事例(テレアポ・交渉)
「断られること」を前提にシナリオを組むのがポイントです。
【トーク実践例】
営業:「弊社の新サービスについて、来週1時間ほどお時間をいただき、詳細にご説明させていただけませんか?」(大きな要求)
顧客:「いやー、来週は忙しいから無理だね。」(拒絶 = 想定通り!)
営業:「そうですよね、お忙しいところ失礼いたしました。
…でしたら、玄関先で5分だけ、資料をお渡しするだけでもいかがでしょうか? 情報収集にお役立ていただければと思いまして。」(小さな要求:本命)
顧客:「まあ、資料受け取るくらいならいいよ。」(承諾!)
💡 あわせて読みたい
ドア・イン・ザ・フェイスは「断られた直後」に切り返す技術です。より詳しい会話の切り返し方(Yes-But法など)については、以下の記事も参考にしてください。
👉 応酬話法とは?営業の「断り」を「合意」に変える4つの切り返し
どっちを使う?シーン別の使い分け判断基準
【本章の要約】
状況を間違えると逆効果になります。長期的な信頼構築には「フット」、短期的な突破には「ドア」が向いています。さらに、この2つを組み合わせた応用テクニック「サンドイッチ法」も紹介します。
フット(FitD)が向いているシーン
「長期的な関係構築(信頼)」が目的の場合に有効です。
- Webマーケティング:資料請求 $\rightarrow$ メルマガ $\rightarrow$ セミナー $\rightarrow$ 商談。
- 高額商材の販売:いきなり売り込まず、まずは無料診断やトライアルから入る。
- 顧客育成(ナーチャリング):時間をかけて顧客の熱量を上げたい時。
ドア(DitF)が向いているシーン
「短期的な合意(イエス)」が欲しい場合、または交渉時のカード切りに有効です。
- テレアポ:ガチャ切りされる前に、選択肢を提示してアポをもぎ取る。
- 価格交渉:定価(高い金額)を見せてから、割引プラン(本命)を見せる。
- クロスセル:「全部セット」を提案して断られたら、「これだけでも」と単品を売る。
💡 関連テクニック
価格交渉で「高い」と言われた際にランクを下げて提案する動きは、マーケティング用語で「ダウンセル」と呼ばれます。
単価をコントロールする戦略については、以下の記事で詳しく解説しています。
👉 アップセル・クロスセル・ダウンセルとは?単価とLTVを最大化する3つの戦略
【応用】合わせ技「サンドイッチ法」
上級者はこの2つを組み合わせます。
- まずドア・イン・ザ・フェイスで大きな要求をして、断らせる。
- 譲歩して「お試し(小さな要求)」を通す。
- そこからフット・イン・ザ・ドアに切り替え、徐々に取引を拡大していく。
「最初は断った」という負い目(ドアの効果)と、「一度お試しを受け入れた」という一貫性(フットの効果)が両方働くため、非常に強力な顧客維持が可能になります。
第5章 使用上の注意点と倫理観
【本章の要約】
テクニックの乱用は「しつこい」「操作的だ」と嫌われる原因になります。フットは刻みすぎないこと、ドアは非常識な要求をしないこと。信頼を損なわないための注意点を解説します。
フットの注意点:刻みすぎない
段階を踏むのは良いですが、あまりに細かく要求を繰り返すと「しつこい」「いつになったら終わるんだ」と嫌われます。
また、最初の要求(資料請求)と次の要求(100万円の契約)の差があまりに大きすぎると、一貫性の原理が働きません。階段の段差は適切に設計しましょう。
ドアの注意点:非常識な要求をしない
「譲歩」の効果を得るためには、最初の大きな要求も「真剣な提案」である必要があります。
例えば、初対面でいきなり「1億円のビルを買ってください」と言い、断られたら「じゃあこのボールペンを…」と言っても通用しません。「ふざけているのか」と怒らせて信頼を失うだけです。
最初の要求は「頑張れば検討できるかもしれないライン」を攻めるのが鉄則です。
第6章 まとめ:心理テクニックは「相手への配慮」である
ドア・イン・ザ・フェイスもフット・イン・ザ・ドアも、単に相手を操るための技術ではありません。
顧客は常に「決断すること」にストレスを感じています。
「いきなり大きな決断は怖い(だから断る)」という顧客に対し、階段を作ってあげたり(フット)、譲歩してハードルを下げてあげたり(ドア)することで、相手がYesと言いやすい環境を作ってあげること。それがこのテクニックの本質です。
ぜひ、自社の商材ならどちらのアプローチがお客様にとって親切か、チームで話し合ってみてください。
よくある質問(FAQ)
ドア・イン・ザ・フェイスやフット・イン・ザ・ドアについて、営業現場からよくある質問にお答えします。
Q. ドア・イン・ザ・フェイスはメールやFAXでも使えますか?
A. 使えますが、対面や電話ほどの効果は期待できません。返報性の原理は「相手の顔が見えるコミュニケーション」で強く働くためです。メールやFAXの場合は、どちらかと言えば「フット・イン・ザ・ドア(まずは資料請求から)」の設計にする方が成約率は高くなる傾向があります。
Q. 同じ相手に何度も使っていいですか?
A. 特に「ドア・イン・ザ・フェイス(譲歩)」は、何度も使うと「どうせ最初はふっかけてくるんでしょ」と見透かされます。ここぞという交渉の場面でのみカードを切るようにしてください。
Q. 最初の要求(アンカー)はどれくらい高くすべき?
A. 本命の要求の「3倍〜5倍」程度、または「絶対に断られるが、非常識ではない範囲」が目安です。例えば、月額5万円の契約が本命なら、最初は「お得な年払い60万円」を提案し、断られたら「では月払いで」と着地させるイメージです。
参考文献・出典データ
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心理学・交渉術(書籍):
ロバート・B・チャルディーニ著『影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか』(誠信書房) -
実験・研究データ:
Freedman, J. L., & Fraser, S. C. (1966). “Compliance without pressure: The foot-in-the-door technique.” (フット・イン・ザ・ドアの提唱論文)
Cialdini, R. B., et al. (1975). “Reciprocal concessions procedure for inducing compliance: The door-in-the-face technique.” (ドア・イン・ザ・フェイスの提唱論文)
※本記事は2025年1月時点の情報に基づき作成されています。
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